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2017.01.09 Monday ... - / -
#鈍色の島
一年中雨ばかりで晴れることのない国があると聞いてからわたしは、こつこつお金を貯めた。貯めに貯めた。そしてようやく今年の5月、移住することに成功した。ヨーロッパの北西部、イギリスよりもさらに北西にあるこの国は、この島は、ほんとうに年中雨が降っていた。使われている言語は独特の訛りのある英語のような感じで、ところどころ意味がわかるのだけど、やはり総じて意味不明な言語になっている。人口が少ないので喋る機会はほとんどないのだけど、やはり買い物で困ることがある。

わたしはこの国に移り住んでなにをしたかったのかというと、なにもしたくなかった。雨の音を聴いて、日がな一日過ごしたかった。ただそれだけだった。ただそれだけだったけど、それがわたしのすべてだった。保険とか年金とか、景気とか賃金とか家賃とか食費とか、資本主義とか制度とか政治とか、そういうおよそわたしにコントロールできないわたしにまつわることの一切を棄てたかった。それらの一切を棄てたとき、わたしがどうしてもほしいのは、雨の音だった。

梅雨の時期に生まれて、思えばわたしは雨の音ばかり聴いてきた気がする。子どもの頃、たのしみにしていた遠足は、どれも雨で流れた記憶しかない。たいていは順延したはずなのだけど、家で雨音を聴きながら、遠足に行きたかったなあと思っている記憶しかない。たぶん遠足が雨で順延した場合はその日は普通に授業が行われているはずで、だとしたらわたしが家で雨音を聴いている記憶はどこかがおかしいのだけれど、そうはいってもそういう記憶しかないのだから仕方がない。

この小さな島で、わたしは雨の音を聴きながら本を読んで暮らしている。日本にいるときよりもものがないしやることもないので物思いに耽る時間が増えた。わたしはわたしのこの60数年の人生のことを思い返す。まあそんなに悪くはなかったなと思う。そして、いまようやくわたしはわたしのほしかったものを手に入れ、それで、残りのおそらく20年もないであろう余生をここで過ごすことをイメージしてみて、相変わらず、わたしにはわからないことが多いな、と思う。いつまでたっても欲しがるのだな、とも思う。欲望には際限がない。それはいつか枯れるものだと思っていたけどそうではないらしい。質が変わるだけで尽きることはない。そういうことに思い至って、わたしは、わたしたちはなんで生きているのだろうと思う。思春期に深く思い悩んだ疑問に、わたしはこの歳になって、いま一度ぶつかっている。

そういったこともすべて、雨がどこかに流しさってくれるような気がして、わたしはずっと、雨の音を聴いて過ごしている。わたしはわたしのしあわせがなにかということを知っている。
2014.06.05 Thursday ... comments(0) / trackbacks(0)
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